牧野家の伝記的事実と伝え聞く真実

 昨年末、2019年12月に牧野信一の甥である私の父、牧野定雄が87歳で生涯を閉じました。信一の作品にも何度か登場している人物です。生前の信一を唯一知る残された貴重な人物でもあり、もっと話を聞いておけばよかったと後悔の念に駆られています。さらに、今年の夏、2020年8月には父の弟である牧野英晴も入院中の病院で永眠しました。コロナ禍のため、最期に会うこともできず、悲しいばかりでした。叔父、英晴は信一が亡くなった後に誕生していますが、信一の弟、英二の子であり、彼もまた父と同じ、信一の甥に当たる人物です。この短い期間に、自分の周りにいる牧野の血を受け継ぐ者が二人も去ってしまい、本当に寂しく思っております。そんな事情もあり、葬儀や法事で親族が集まる機会が多く、その中で話題に出た話などを少しお話ししようかと思います。
 作品「父を売る子」の中では、牧野家には代々長男の名前に「英」の字をつける習慣があったと書かれています。しかしながら信一の父、久雄は牧野家の長男でありましたが「英の字」はついておらず、戸籍を見る限りでも7人兄弟のようであるが誰にも「英の字」はついていません。ただし次男および長女の名前が残っておらず、これは戸籍を作った時に存在していなかった(亡くなっていた)ということなのでしょうか。こちらはもう少し調べてみようかとも思っております。戸籍を調べてみると祖父、英福や曾祖父、英清も「英の字」がついています。信一は作品の中でも「阿父さんや僕は長男だが英じゃないぜ。」と書いていますが、信一の弟である私の祖父は次男で英二。作品の中では「英二郎」となっていますが「英の字」がついています。信一は長男には「英の字」と父、久雄の「雄」をとって、「英雄」とつけました。こちらも作品中で「俺の名前の雄をとって英雄にしようか?」と親子の会話が書かれていました。
 作品には書かれていないその後の牧野家。祖父、英二は牧野家の長男である私の父には「英の字」をつけていません。何故ならば、父が生まれた時には祖父は、家督を継ぐために海老家に婿入りし、「海老英二」となっていました。定かではありませんが、海老家の後継ぎの長男として生まれた父は牧野家とは関係がなくなったため、「英の字」がついていないのではないかと推測。海老家の家長、父の祖父にあたる者の名は「海老定徳」といい、その「定」という字、牧野家の父の祖父にあたる久雄の「雄」をもらい「定雄」とつけたのかなとも思ってみたりしました。本当のところはわかりませんが。父を出産後1ヶ月で母親の海老ミチ子が早々と病死してしまい、定雄と英二親子は元の牧野家へと戻ることになります。祖父、英二はその後再婚し、後に生まれた長女に「英里」、次男に「英晴」と「英の字」をつけています。そして英晴の長男は「英利」、その子供も「英斗」と「英の字」はまだまだ受け継がれていることを先日知りました。牧野家の「英の字」の習慣は今の時代においても続いており、先祖代々途切れることなく子々孫々と続く素敵なことだと思います。この先もきっと・・と期待していきたいと思います。
 先日の法事の中で聞いた話。祖父、英二から信一が亡くなった後の英雄のことを聞いたという叔母の話。信一が亡くなった昭和11年(1936年)、まだ14歳だった英雄。妻のせつは息子、英雄と共に東京へと戻り、以来、せつ親子は小田原へ帰ることはなかったと言います。英雄はその後学徒兵として戦地へ出向きました。戦地において「死にたくない奴は前へ」と言われた際に最初に手をあげ前へ出たという英雄。真っ先に戦場へと向かう羽目になったといいます。ニューギニアで戦死した英雄ですが、その年に終戦となりました。あの場面で、死にたくないと言わなければ、今まだこの世にいたかもしれません。終戦を迎え、結婚をし、子供が生まれ、今の牧野家の集まりに賑や かな面々で集っていたかもしれないねと、そんな話をしながらも皆、少しばかり残念な思いをしたのでした。
 牧野家の親族の集まりでは、様々な話を聞くことができます。今後もそんな伝手から聞き出した話をお伝えできればと思っております。信一と同じ牧野の血が流れている一人として、今後も信一が広く人の知るところになるように、微力ながらも尽力していきたい。父を通じて「続・西部劇通信」編集人である熊谷氏と出会えたこと、牧野の親族以上に信一を理解し、敬意を表してくれる氏には私を含め、親族一同が感謝しかないと思っています。亡くなった父に託されたこともありますが、これからも氏のお力もお借りして信一を先々にアピールできたらと思う一人です

MAY
  牧野信一弟・英二の孫。神奈川県小田原市出身。
結婚後各地を転々とする転勤族時代を経て、
神奈川県に戻り、現在は夫、娘、息子、猫との生活。
神奈川に戻ったのを機に牧野との交流深め、現在に至る。
子供たちの成人を機に、フリーのライター初心者として時々執筆中。