2013年10月に牧野信一『繰り舟で往く家』を収めた『日本文学エスペラント作品集』寄贈いただましたが、このたび『繰り舟で往く家』の翻訳者森田明氏より、 2冊のエスペラント訳短篇集が届きました。
その1冊が牧野信一「ゼーロン 他 五篇」
他の言語による初の牧野信一作品集が出現の快挙です。
さっそく目次(ENHAVO)をのぞいてみると下記の6篇が並んでいます。
【1】Oraj siteloj kaj la luna lumo
【2】Z^eron
【3】Pordego de demonoj
【4】Gast-diĉiple ĉe l'batalarta trejnejo «Groto de Monta Koboldo»
【5】Domo alirebla per ŝnur-pramo
【6】Mia literature aŭtobiografio
【2】は「ゼーロン」と判じますが、他は???
(ヒント)いずれも岩波文庫版「ゼーロン・淡雪」にされています。
また森田氏より、この2冊の翻訳短篇集が生れ出た経緯について、刊行時に発表された文章をあわせて寄せていただいたので再掲させていただきます。
⇒森田明「翻訳テンマツ記」
エスペラント版 (森田明訳) 牧野信一「ゼーロン 他 五篇」(右)
エスペラント版 (森田明訳) 「20世紀日本の小説5篇」(左)
牧野信一「ゼーロン 他 五篇」目次
昨年4月、「センター通信」誌上に近況報告として、日本文学短編作品の翻訳に励
んでいると書いたところ、山口眞一さんはじめ数人の方から「本にしてみては?」
と勧められた。もとよりこれは言語機能障害改善のため始めた作業療法の一環だっ
たので、出版のことなど念頭にはなかったが、直後ネットでUEAの機関誌esperanto 7月号に載ったプラハの出版社KAVA-PECH創立30周年を祝う記事を見
て興味をひかれた。
チェコ語、ドイツ語、英語、それにエスペラントですでに230点以上を刊行してきた個人企業。そういえば私も生きながらえて、いま80歳に達したところ。記念にささやかな冊子を出すのも悪くないではないか。にわかに気分が高揚し、ものは試し、とばかり翻訳原稿を添付したメールをプラハに送ってみると、一週間もしないうちに社主のChrdle氏から返事が届いた。なんと「当社で出版は引き受ける。ただし著作権が有効な作家が3名含まれているから、許可を取ることが条件」とのこと。
そうだった!日本での文学作品の版権は作家の没後50年間有効だったのが2018年12月からは「没後70年間」に延長されていたのだった。あたふたと日本著作権協会や出版社に問い合わせ、版権所有者の所在を知らせてもらったまではよかったが、せっかくの電話が不通だったり、返事がもらえなかったりで少しの進展もない。そのうちやや正気を取り戻した私は考えた。見通しのつかない版権問題にこれ以上時間を費やすより、私家版にしよう。「近親者などにごく少部数を無償で配布すること」は日本著作権法に抵触しないはず。私の場合、近親者とは80年の人生で出会ったエスペランティストたちのこと。多くはすでに鬼籍に入っているので、40部あれば十分いきわたる。傘寿記念として受け取っていただければ幸いだ。
もはやKAVA-PECHの出版物ではないから、35年の昔、妻の詩集を自費出版したときに使った架空の書店名Éditions du Plaqueminierにお出ましを願った。フランス語で「柿の木」の意味。KAVA-PECH社は訳文の厳密な校閲、表紙デザインの考案などで惜しみない援助をしてくれた。書名として掲げた VIZIOJ AFEKTAJ ILUZIOJ AFLIKTAJ は翻訳中にふと口をついて出たダジャレにすぎない。表題ページの下につつましく5 rakontoj el Japanio de la 20-a jarcentoとあるのが本来の書名。
治療法としての翻訳作業はもう少し続ける必要がある。次は1936年に39歳で世を去った牧野信一が「ギリシャ牧野」という異名を取った絶頂期の名編に取りかかろう。家事と介護のスキマ時間活用は変わらないが、もう書名だけは Makino la greko と決まっている。
(2023年1月31日-記)
発行:名古屋エスペラントセンター「センター通信 第308号 2023年4月20日発行」より
森田明「翻訳テンマツ記」所収PDF(P10)
→今回紹介した短篇集を読みたい方は、下記で購入可能です。
エスペラント版 (森田明訳) 牧野信一「ゼーロン 他 五篇 」税込み定価1430円
注文先:
一般財団法人日本エスペラント協会
〒162‐0042東京都新宿区早稲田町12‐3
電話 03‐3203‐4581
→「日本エスペラント協会」については、こちら